火曜日には魚を頼むな?「キッチン・コンフィデンシャル」
2007年第4Q(9-12月)に読んだ書籍で一番のお気に入りはこれになりそう。
「キッチン・コンフィデンシャル」(新潮社)
著者であるアンソニー・ボーディン(Anthony Bourdain)は、NYの有名レストランの総料理長(Executive Chef)でかつ本書を含むベストセラーを記した作家だが、ボクが彼を最初に知ったのはDiscovery CHANNELの「アンソニー世界を喰らう(Anthony Bourdain: No Reservations)」という番組(その時はスペインのトレドで恐ろしく美味そうなピンチョスを頬張って酒をかっ喰らってるのを見てグルメな旅行家&エッセイストくらいに思っていた)。
とにかくこの本、料理(食べること&つくること)が好きで、しかも厨房(あるいはその近辺)で働いたことがある人間にとっては、文句なしに面白い。
著者がなぜ料理人を目指し、どのようにその世界に入り込み、いかにして転落し這い上がったかという破天荒かつ完全ノンフィクションなストーリーで、もちろん美味そうな料理も出てはくるが、主役は紛れもなく著者を含む様々な料理人達。キッチンの絶対専制君主として君臨するシェフと、想像を超えるヒエラルキーの中で時に蹂躙され時にクーデターを起こす個性豊かなコック達のほとんどは、絶対一緒には働きたくないし友人にもしたくない種類の人間にも関わらず、とても魅力的だ。
馴染みのない人間にとっては信じがたいエピソードだらけのように思えるだろうが、ボク自身、学生時代にホテル内の高級フランス料理店で軍隊のような厨房を垣間見た経験から(ボクはバーテンダーだったので直接シゴキは受けてない)、この本で語られていることの多くは世界中のキッチンで繰り広げられていることに近いと断言できる(さすがに日本だとドラッグや不法移民などに関するエピソードはあてはまらないと思うけど)。
本の装幀もいい。個人的には新しい文庫版よりもペーパーバッグ風に作られた新書版をオススメする。スペースぎりぎりに印字された文字(読みにくいというヒトも多いかもしれないが)とざらついた紙の感触、そして野中邦子氏の翻訳が内容にとてもフィットしていてジョリーグッド。鞄に放り込んでおいても気にならない重さなので、常に持ち歩きたいくらいだ。
ところでこの本を読むにあたって、読前/読後には是非、映画「ディナーラッシュ」をオススメしたい(できれば読む前がいいかも)。本に描かれている情景をより鮮明にイメージできると思う。
映画の内容は、NYのトライベッカにある有名イタリアンレストランの1日(1晩?)を描いたドラマで、ストーリー自体もどんでん返しがあって楽しめることはもちろん、繁昌店の厨房と料理人の世界、それこそ「キッチン・コンフィデンシャル」な部分をセンスの良い映像と音楽(サントラがないのが残念!)で楽しめる佳作。実際、本を下敷きに作られている部分も多いそうだ。
ちなみに劇中のレストランは実在していて、舞台となったセット、もといお店で同じくイタリアンを楽しむことも出来る(以前NY滞在中に訪問してきた)。そんなところも含め、ボクの好きな映画の一つ。
余談だが、以前読んですごく感銘を受けた「行動主義~レム・コールハースドキュメント~」も、ファナティックな職人(建築家だけど)を扱った本で装幀が黄色だった(「キッチン・コンフィデンシャル」は本の小口&天地が黄色)。ボク自身がそうした(自分にない)狂信的なまでの職人気質に憧れているということも理由かもしれないが、装幀における関連性はいかに。
3 comments:
1:23 午前
装丁が黄色と言えば、もう一つ!春樹の短編集「象の消滅」ね。
佳作、いや傑作揃いですな。
9:45 午後
おもしろそうだね。英語版を買ってみます。厨房が舞台と言えば、映画「幸せのレシピ No Reservations」は良かったです。(しかし、何で邦題ってこうもダサくなるのかね?わざとやってるしか思えない。。)
キャサリン姐さんの肝の据わった演技が嫌いでなければ、お勧めです。
11:25 午後
なっとまきさん、
黄色になんだか縁がありますな。そう言えば「深夜プラス1」も背表紙が黄色。
ba@bさん、
面白いですよ!でも原書だとキッチン・スラングがわからないかも・・・TVドラマ化はされてるらしいのですが、それよりは「Dinner Rush」の方がおすすめです。
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